スピードか、正確性か?

前回の日記(「前回」が二ヶ月近く前、というのが笑えますが)へのコメントで、
「スピードかミスを減らすことのどちらを優先するべきか?」という質問をいただきました。
本当に単純に答えるなら「ミスを減らすことを優先すべきだと思う」なんですが、
そのあたりについては普段からあーでもないこーでもないと色々考えていますので、
今回の質問を口実に、練習方法に対する私の考えを吐き出してみようと思います。


まず根本的に、「上達するとはどういうことか?」という問題があります。
もちろん上達とは「スピードが上がり、ミスが減る」ことですが、それは結果として現れるものであり、本質ではありません。
実際には「指をとにかく速く動かす能力」「指の動きの正確さ」「指に空間的なキー配置を叩き込むこと」「文字を素早く認識する能力」など数えきれないほど様々な要素があり、それら個別の能力が高まることでスピードや正確性が向上していくわけです。
つまり、それら個別の能力を高めていくことこそが「上達」の本質であり、上達するためにはそれら個別の能力をどう伸ばしていくか、ということを考えなければいけないことになります。
言い換えれば、「ミスを減らすことが大事か」「スピードを上げることが大事か」という考え方は、練習の目的意識としては大雑把にすぎるのではないか、ということです。

となると理想的には「どの能力がどれだけスピードと正確性に貢献するかを考え、それぞれの能力を伸ばすためにはどのような練習が必要かを考え、それらを全て考慮した上で練習の比重を決め……」ということになってくるわけですが、どう考えても現実的ではないです。
そこで現実的な妥協点として、「上達するための様々な要素をもっと単純化し、それを大雑把な基準にして練習方法を考えよう!」ということになると思います。
その基準として最も一般的なものが「スピード・正確性」という分類であり、その分類に基づく「スピード重視の練習か、正確性重視の練習か」という考え方だと思います。

スピード・正確性という分類は無難で分かりやすく、タイピング能力を客観的に「表す」指標としては文句無く優れています。
しかし私の経験と個人的な感覚から言えば、自分のタイピング能力を「分析する」ため、また「練習の目的意識とする」ための分類としては、あまり使える指標ではないと思っています。
何故なら、スピードと正確性は別個の能力でもなんでもなく、密接に関わっているからです。
恐らくどんな人でも速度を半分に落とせば正確性は格段に上がり、正確性を犠牲にすればある程度までは速度を上げることができるでしょう。
さて、スピードも正確性も自分で変えられるとすると、「スピードを上げるための練習」「正確性を上げるための練習」とは一体何物なのでしょうか?
まあ色々説明はつけられるんですが、どうも曖昧な分類であることは分かってもらえると思います。

では私はどういう分類をしているのかというと、こんな感じです。
(1)指さばきがどれだけ指に染みこんでいるか
(2)指の運動能力(をどこまで発揮できるか)
(3)初速、文字認識など、指さばき以外の能力
(時に応じてもっと細かく分けて考えたりもしますが、基本はこれです)

「(2)(3)は良いとしても、(1)は正確性と速度を言い換えただけじゃないか」と思われるかもしれませんが、些細ながら重要な違いだと思っています。
「正確にキータッチできるか」という指標は速度という条件に左右されますが、(1)はそれとは関係ありません。
この分類においては、「速度・正確性」という「結果」は(1)(2)(3)の総合として表れてきます。
つまり、運動能力というベース速度があり、指さばきの染み込み具合によって正確性や速度が変化(例えば苦手なワードで詰まったり、ある配置の染み込みが曖昧でミスをしたり)する、といった具合です。
「スピード・正確性」に比べると、かなり本質的な分類になっているのではないでしょうか。

さて、これを踏まえるとすればどのような練習をすべきでしょうか。
(3)は特殊な要素なので除外するとして、(1)(2)の重要性については意見が分かれると思いますが、私はとにかく(1)を重視して練習するようにしています。
これは完全に経験論になってしまいますが、指の運動能力というのは伸ばそうと思って簡単に伸びるものでもなく、地道な練習で指さばきを染み込ませていく中で、ふと気付くと向上しているものだと思います。(ここでは、速さ=運動能力では無いです。指さばきが洗練されていく中で少しずつ速さも向上していき、その積み重ねの中で運動能力自体が向上していく、という感じ。)
また、(2)で注記した「運動能力を”どこまで発揮できるか”」というのも上達の重要な一要素ですが、これもふとした切っ掛けでギアが上がるという類のもので、普段から意識するものではないと思います。(ある程度タイピングをやってる方なら急にスピードのリミッターが上がった経験があると思いますが、それを勝手に「ギアが上がる」と呼んでます。ギアが増えると言った方が近いかもしれませんが。)

具体的な普段の(基本的な)練習方法については、
・ミス9制限(本気でやるならミス4制限)をかけた上で、ある程度安定的に打ち切れる速度で打つ
というやり方で、常に「正確な指づかいを染み込ませること」を心がけるようにしています。
スピード向上を狙った乱打の繰り返しは、むしろ乱雑な指づかいを染み込ませ、正確性どころかスピードも損なわせるものだと思っています。

とは言ってもスピード向上のための練習も必要だと思ってるので、
・記録更新を狙い、タイムを重視して打つ(正確性は比較的軽視する)
・「安定して打てない速度」をわざと保って打つ
のような変則的な練習もたまーに取り入れてます。(最近は練習自体サボってるんで過去形にした方がいいかもしんないですが…)

また、ギアを上げるためのイメージトレーニングとして
・TWでのトライアルが終わったあと、Replayを見ながら机の上でエアタイピング
というのをよくやります。
机の上なので当然Replayの速度は軽く超えられるわけですが、そこで「一応指は動かしてるんだし、理論上はこの速度が出せるわけだな!!すげー速えー!!」と思い込むことで、無意識にかけているスピード制限を取り外すのに役立つと思っています。
これは昔からずっとやってますが、気分転換にもなるので強くおすすめします。


色々書きましたが、とにかく個人的な意見としては「正確な指づかいを染み込ませることを意識する(≒正確性を意識する)」ということ。
普遍的(すぎてわざわざ言うのもはばかられるんですが)な指針としては、「その練習で何を伸ばしたいのかを常に意識する」ということをおすすめしたいと思います。


若干話題をズラした上に暴走してしまった感もあり申し訳ないですが、私の回答はこんな感じです。
前回の日記でご質問くださった匿名の方、ありがとうございましたー。

コメント

  1. 論理的で分かりやすいですね。御見それしました。
    目的の明確化と向上心が大切という事で、意識していきたいと思います。

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  2. 偉いスナイパーは言いました
    「ゆっくりはスムーズ、スムーズは早い」、と

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  3.  打鍵の正確性については、「安定して手順を繰り返せるように、よく訓練する」方法と、「運動機能に見合った位置へと、文字を動かす(動作改善)」方法の、2種類があります。
     後者が変えられない場合、前者をやる……のですが、このとき重要なのは「(失敗による)手戻りを放置すると、手戻りを前提にした手順を、体が覚えてしまう」事だと思います。
     正確性優先でタイピング速度の上昇を目指すというのは、「訓練の効果」を失敗回復へと振り分けずに済む、正しい考え方だと思います。

     ……と、えらそうな物言いをしてしまい失礼しました。

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  4. >匿名 さん
    長々と書きすぎて不安だったんで、読んでいただけてホッとしました…ありがとうございます。
    目的を明確にしておくと、「こんなに黙々と練習し続けて、本当に実力は上がるんだろうか……」みたいなネガティブ思考にも陥りにくくなる効果もありますよ~。

    >匿名 さん
    ほんと、それを常に意識していかなきゃダメですよね。
    とは言え集中が切れたり更新を目前にすると、すぐに「ゆっくり、スムーズ」なんて考えは飛んじゃいますが…。

    >相沢かえで さん
    失敗した手順が固まってしまう、というのは練習する上で最も危険なことですもんね…。
    かく言う私自身、最近はどうもそれに陥ってる感じです。
    JISカナで「-」「む」辺りを打つ際、どうもキー半分くらい左を叩くクセができていて、矯正しようとしても中々戻りません。
    直接の原因は練習をサボってたせいで小指の開きが足りなくなったことですが、「常に安定して手順を繰り返せるようにしておく」ことの重要さを噛みしめている次第です。

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  5. おお。なるほどと思える所がおぉかったです。
    ミス絞り9(4)とかエアタイピングとかは
    早速、練習に取り入れてみよと思います。

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